クロス・カントリー


 佐賀では「天山越え」と銘打ち、毎年正月に唐津から筑紫山地を越えて佐賀平野までのフライト
が行われます。
 筑紫山地の峰々は標高700〜1000m程度。山地の幅も20キロ程度であるため、通常サイズの
気球に、ガスシリンダーを一本余分に積むくらいの手軽な装備で山岳フライトを楽しむことができます。
 季節風である北西風は、唐津側に薄い雲をもたらし、玄海灘が陽に映える光景が観れることは少
ないのですが、モヤけた層の外側に出るときから青い空と大気の層、また山の峰々に他の気球が色
どりを添えた「あの世」の光景が眼前に広がります。
 「あの世」に行けないとき。モヤが厚く、制限高度内では空が澄んだところまで行けないときでも、
場合によって、寒ければ寒いほど、「ダイヤモンドダスト」を観るチャンスでもあります。 薄く差し込む
太陽が周囲で舞う氷の結晶を輝かせ、キラキラした光のシャワーがバスケット内にそそぎ込む光景は
なんともいえず、異次元です。
 また、離陸してから巡航風をとらえるまでの緊張が、やや解けたときに上空で呑むコーヒーの味は
世界で最も美味しいものだと言えるでしょう。

 ときに風の層がはっきり違いを見せ、高度を変えることによって自在に道を選べるとき、山岳地は
絶好のフライトゾーンになります。 尾根をかすめるように越え、低く降りて谷風を使い、高高度へ上が
って一挙に方向修正をしながら、山岳地で思いのままバラバラに飛んでいた気球群が次第に天山の
頂に集まってくる。気球乗りにとっては至福のフライトです。

 ただし、忘れてはならないのはアクシデントへの対処。 例えば、風向が変わって平野から外れそう
になったり、ガスの残量がキビしくなったり、着陸時に突風に襲われたり。
 これらの危険はフライト計画から着陸までの過程の中で、ひとつひとつを排除する備えをし、また運
悪く、避けられなかった場合にでも冷静に対処できる備えをしておかなければなりません。
 また、経験が少ないうちは、未知の空に飛び立つ緊張感の方が先に立ち、景色を楽しむゆとりも、
持てないものですが、経験を積むにつれて前述のような、日常離れした世界を楽しむことができるの
でしょう。

 また、追跡クルーは、空へ仲間を飛び立たせてのち、気球と交信しながら目的地へ先回りします。
目的地での風の状況を気球に伝えたり、航路がずれた場合は更に移動して先回りを行い、仲間の
安全を見守ります。
 フライトが順調であれば、着陸目的地に先回りしたときに徐々に山を越えて大きくなってくる気球を
見るのも楽しいものです。

 (注)「天山越えフライト」は佐賀熱気球パイロット協会のお世話によって行われています。
 

                                    Photo by E.Yamaguchi